殺人は、

 甘く切ない薔薇の香り    

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Background Story

人間凶器

主人公である速見真一は中国拳法や空手を習得し、商社勤務の傍らでキックボクサーとして鳴らす格闘家だった。彼が拳法を習い始めたのは中学生のときである。それはある事件がきっかけだった。幼なじみの「川上美晴」と 町に出かけた彼は不良に絡まれ、連れて行かれる美晴をどうすることもできなかったのだ。弱い自分に対する言い知れぬ自虐の念――
その出来事をきっかけに彼は変わった。強くなる為、ひたすら武術の習得に精進した。大学生になっても空手を習い、就職してからもキックボクサーとして肉体の鍛錬を怠らなかった。
しかしそんな彼を「人間凶器」に変えてしまうある事件が起こった。
彼が格闘家になるきっかけをつくった幼なじみの川上美晴が、なんと自殺してしまったのだ。そしてそれから数ヶ月後、彼は許しがたい驚愕の事実を知る。
その日を境に彼は、復讐に燃える狂気の殺人者に変わった――

異質者

本作のヒロイン「湊川真澄実」は特異能力を有する「異質者」である。その能力というのは「人間の性」を読み取る能力であり、彼女がその能力を身につけたのは幼いころの壮絶な経験がきっかけだった。
それは虐待だった。八歳のころから義理の父親に執拗な暴力を振るわれていたのだ。見て見ぬ振りをする母親、もはや彼女には耐えること以外に為す術がなかった。そしていつしか彼女の心に、予知能力とも言える不思議な力が芽生え始めた――





もう一人の人間凶器

じつはヒロイン「湊川真澄実」もまた人間凶器である。
義理の父親に虐待を受けていた彼女は、いつしかある未来を予測するようになる。それはますます暴走した男の姿であり、その男の狂気によって踏みにじられる弱者たちの哀しい未来だった。将来生まれ得る被害者を無くす方法、彼女にはもうそれ以外には思い浮かばなかった。そしてその日から彼女のトレーニングが始まった。
男を殺す為のトレーニングが――

加害者保護と再犯

本作にはもう一人の重要な人物が登場する。精神科医である「牛島」である。かつて湊川真澄実の主治医であった彼は、あることに気がつく。それは彼女の有する特異能力だった。そしてかねてより抱いていた彼の疑問は確信に変わった。
「この世には更正のしようのない絶対的な悪が存在する」
彼は心に誓う。
行き過ぎた加害者保護がまたさらなる被害者を生む現在の社会に、法の枠組みを超えた荒療治を施そうと。そして彼がその思いを託したのが、他ならぬ速見真一であり、湊川真澄実だった――

そして…


速見真一と湊川真澄実の、壮絶な「殺人」の日々が始まった。
いつしか二人には愛が生まれる。飾りも偽りもない真の愛が。
人を愛しすぎるが故に人を殺める、そんな男と女の、痛いほどに美しい戦いの物語――

殺人は、甘く切ない薔薇の香り




【作品冒頭部分からの抜粋】 

 とても静かだった。いや、何も聞こえなかった。頭の中は真っ白で、目の前の床に広がる血の池が、まるで敷き詰めた薔薇のように美しかった。その薔薇の絨毯の上で、腕と足が反対方向にひん曲がった山下が、潰れたバッタのように転がっている。すでに息はない。
 なんという恍惚感。ゆっくりとアドレナリンが希釈され、かわりに、得も言われぬ充足感が心底から沸々と込み上げてくる。
(終わったよ、美晴……)
 最後に山下の腹を踵で踏みつけると、僕は事務所の出口に向かった。
 アルミの引き戸を開けるとそこはまるで映画の中の一シーンのようで、虹色に滲んだ灯りの交錯する夜の繁華街が、静寂の中で幻想的な絵を描いている。まるで夢の中にでもいるようで、自分が現実の世界に存在している気がまったくしなかった。このまま夢の中にいたい気もしないではなかったけれど、それよりも、早くこの夢を終わらせたいと思った。僕は夢の出口を探して、高速の高架下の大通りに沿ってしばらく歩いた。
(あれだ――)
 前方に青い看板が見えた。麻布警察署――ボンヤリと浮かぶ白い文字。僕はそこに、夢の世界からの逃げ道を見つけた。あそこに行けばまた現実の世界に戻れる。迷わず僕は、そこに向かってまっすぐ歩を進めた――

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