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  • 魂を揺さぶる、甘く切ないマッド・ファンタジー




         




    アクション小説の王道だ

    “ともかく、読後感が良い。特にストーリーは掛け値無しの王道で、ここまで一貫するなら観客として申し分ない。痒い所に手が届く、といった印象だ。アクション好きの読者なら、満足すること請け合いだ。”
     

         キイチ-T さん



    痛快。

    “爽快だ。スッキリ感8割、ドキドキ・ハラハラ感2割。著者の筆致はプロのレベルだ。”


         よっちゃんです さん


     
    書評

     つんどく速報 

     ペンと拳で闘う男の世迷言 



    ―― 以下、本文より一部抜粋 ――

     薄明かりの中で浮かび上がる透けるような白い背中、殴打が咲かせた薔薇色の花――それを見つめる啓太の中で、今度は別の悪魔が目を覚ました。

     むくっと起き上がった湊川は部屋の隅に設(しつら)えられた台所に行き、棚を開けてそれを二つ、それぞれを小さな手に取った。毒々しい鉄色に光る二本のナイフ、そのナイフが黄昏色の宙に銀色の閃光を放ったとき、湊川の新しい人生が始まった――

    「彼女の心の傷は、きっと深すぎたの。完全に壊れちゃった心は、二度と元には戻せないの」

    「自分だけは、生きたいか……」

     湊川の頬に涙が零れた。とても哀しい色の涙だった。僕にはそれが、美晴たちに代わって天使が流した無念の涙のように思えた――

     強く抱きしめると壊れてしまいそうで、僕はなるべく力を入れないように心がけた。僕の胸の打つ鼓動が、彼女の肩を通じてふたたび僕に伝わってくる。ドクドクドク、と大きな鼓動に混じって、トクトクトク、と小さな鼓動も聞こえてくる。そしていつしかその二つの鼓動が微妙に重なり合い、素敵なハーモニーを奏で始めた。

    「用が終わったら、こんな奴、殺しちゃいなさい」

    「うん……でも静かなことを喜べない人たちもいるの。そういう人たちにとっての静けさは、暗くて恐ろしい闇でしかないの。きっと松嶋さんも新山さんもそうだったはず。坂井さんなんて、今こうしている間も暗い闇に怯えているのよ」
    「そうかもしれないな……」
     僕はそれ以上言うのを躊躇った。同じような酷い目に遭ってきた彼女だからこそ許される言葉であって、何も知らない僕なんかが利いた風な口を叩ける話題じゃない。

     神々しい銀色の十字が、下賎な獣を切り裂いた。青いビニールシートの上に飛び散る真っ赤な鮮血――血の上に次々と血が重なり、カンディンスキーの抽象画を想わせるような、この世のものとは思えないほど美しい絵を描き出す。その上ですっかり抽象的な姿に変わり果てた佐竹の肉塊が、最後のダンスを踊った――
     なんという恍惚感。そして僕の鼻腔に、どこからともなく心地よい香りが漂ってきた。それはあの、甘くてどこか切ない、薔薇の香りのようだった。

     僕はダラーンと垂らした腕をさすりながら笑った。
    「なんともないさ、これくらい。ほっときゃ、一ヶ月もすりゃ治るよ」
     そんなことが有り得ないことくらいわかっていたし、もちろん湊川にもわかっていた。
    「早く帰ろう……」
     泣きそうな顔でそう言って、湊川は僕の右腕を引っ張った――

     驚く僕にかまわず、牛島は、その大きな身体(からだ)を震わせながら声を振り絞った。
    「頼む。頼むから逃げてくれ。こうなったのも、ぜんぶ私の責任だ。黙ってりゃいいのに、何もかも話してしまった、私の責任だ。私のためにも、お願いだから逃げてくれ」
    「…………」
     僕は呆然として牛島の顔を見つめた。その両の目から零れ落ちた涙がテーブルを叩き、飛沫となって宙に弾け散る。心の奥底から熱いものがこみ上げてきて、僕は胸が締め付けられる思いがした。できることなら、この男の意に沿いたいと思った。でも僕の気持ちに変わりはない。延命のために逃げるなんて、まっぴらごめんだ。

    「痛いか、このクズ。でも、死んでいった人たちの痛みは、そんなもんじゃないのよ。みんな、地獄のような苦しみを味わったの。でも、もう終わりにしてあげる。時間の無駄だから」

    「なんでこんなに綺麗なんだろう……」
     すると、湊川がぼそりと言った。
    「人間の手が届かないから……」
     なるほどな、と僕は妙に納得した。たしかに人間が触れたことのないものはみんな美しいし、逆に人の手に晒(さら)されてしまうと、何もかもが汚く卑しくなってしまう。
     そのとき、湊川がその左腕を、僕の右腕に回した。
    「痛くないのか?」
    「だいじょうぶ」
     身体(からだ)を寄せ合ったまま、絶え間なく打ち寄せる波の音を聞きながら、僕たちは砂浜の上をゆっくりと歩いた。歩くうちに次第にあたりに帳が降り始め、すっかり赤く染まった太陽が、その火照った身体(からだ)を冷ますように海に沈もうとしている。僕たちは足を止め、その雄大な、それでいて少し切ない景色に、しばし見とれた。

     その夜は、とても静かな夜だった。耳を澄ませば、遠くから潮騒の音が聞こえてくる。その波の音に混じって、僕には聞こえた。確かに聞こえたのだ。美晴や、松嶋が愉しそうに笑う声が。きっとあの世で源蔵が、彼女たちの無念を晴らしてくれたのに違いない。



    殺人は、甘く切ない薔薇の香り(サンプル)

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